
「楽譜がスラスラ読めたら、好きな曲を自分で練習できるのに」——ピアノを始めた大人の方から、一番よく聞く悩みがこれです。
実は、楽譜が読めない原因のほとんどは「才能」ではなく「順番」です。学校の音楽の授業では記号の名前を暗記させられただけで、「読んで弾くための手順」は教わっていません。この記事では、ピアノ初心者が楽譜を読めるようになるための知識を、覚える順番どおりに図解で解説します。
先に当サイトの考えをお伝えすると、楽譜は「全部覚えてから弾く」ものではなく「弾きながら覚える」ものです。この記事も、最初から全部暗記しようとせず、鍵盤の前に置いて辞書のように使ってください。そのほうが確実に早く読めるようになります。
楽譜の構造を理解する:五線とト音記号・ヘ音記号
楽譜は「五線譜」と呼ばれる5本の横線でできています。音の高さは音符が置かれる位置(線の上か、線と線の間か)で表し、音の長さは音符の形で表します。この2つの情報の組み合わせが楽譜のすべてです。
ピアノの楽譜は五線譜が上下2段セットになっています。上の段の先頭にはト音記号(高い音域・主に右手)、下の段にはヘ音記号(低い音域・主に左手)が付いています。ピアノは両手で異なる記号を読む必要があるため、他の楽器より譜読みのハードルが一段高いのですが、逆に言えばこの2つの記号に慣れてしまえば、ピアノの楽譜の骨格は理解できたことになります。
大人の初心者の方に多いつまずきが「ヘ音記号の後回し」です。ト音記号ばかり練習して、左手の譜読みが2ヶ月遅れる——というパターンをよく聞きます。最初から両方を「1日5分ずつ」で並行して覚えるのがおすすめです。
音の高さを覚える:ドの場所から広げる

音の高さを覚えるコツは、全部を均等に覚えようとしないことです。まず基準になる音を3つだけ覚えます。
基準の音は「真ん中のド」「ト音記号のソ」「ヘ音記号のファ」の3つ。真ん中のド(中央C)は、ト音記号とヘ音記号のちょうど中間、五線の外に短い線を足した位置にあります。ト音記号はそもそも「ソ(G)の位置」を示す記号で、記号の渦巻きの中心が第2線のソです。ヘ音記号は「ファ(F)の位置」を示す記号で、2つの点に挟まれた第4線がファです。
この3つが分かれば、あとは「隣の音」として数えられます。音符が線→間→線→間と一つ動くごとに、音はドレミファ…と一つ進みます。最初のうちは数えて構いません。曲の練習を続けるうちに、よく出てくる音から順に「見た瞬間に分かる音」が増えていきます。これが譜読み上達の実際のプロセスです。
もう一つ、覚え方のコツとして「線の音だけをまとめて覚える」方法があります。ト音記号の5本の線は下からミ・ソ・シ・レ・ファ。間の音は下からファ・ラ・ド・ミ。4つずつのグループにすると、丸暗記より格段に定着が早くなります。
音符と休符の種類を覚える:長さは「倍・半分」の関係

音の長さは音符の形で表します。全音符(白い玉)を基準に、2分音符はその半分、4分音符はさらに半分、8分音符はさらに半分——と、すべて「倍・半分」の関係になっています。
| 音符 | 長さ(4分の4拍子の場合) | 対応する休符 |
|---|---|---|
| 全音符 | 4拍 | 全休符 |
| 2分音符 | 2拍 | 2分休符 |
| 4分音符 | 1拍 | 4分休符 |
| 8分音符 | 半拍 | 8分休符 |
| 16分音符 | 4分の1拍 | 16分休符 |
あわせて覚えたいのが「付点」と「タイ」です。付点は元の音符の長さを1.5倍にする点(付点4分音符=1拍半)、タイは同じ高さの音符2つをつないで長さを足す弧線です。初心者向けの楽譜ではこの2つが頻出するので、出てきたときに都度確認すれば十分です。
休符は「音を出さない」ことを示す記号ですが、初心者ほど休符を軽視しがちです。休符も「休みという音を弾いている」つもりでカウントすると、リズムが崩れなくなります。
拍子記号とテンポを理解する

楽譜の冒頭にある分数のような数字が拍子記号です。4分の4拍子なら「4分音符を1拍として、1小節に4拍入る」という意味。ワルツで有名な4分の3拍子なら1小節に3拍です。
拍子で大事なのは、数えることよりも「1拍目を感じること」です。4拍子なら「イチ・に・さん・し」の「イチ」を少し意識するだけで、演奏が音楽らしくなります。メトロノーム(スマホアプリで十分です)を使って、まず楽譜を見ながら手拍子でリズムだけ叩く練習をすると、音の高さと長さを同時に処理する負担が減り、譜読みが一気に楽になります。
♯・♭と調号:黒鍵の読み方
シャープ(♯)は半音上げる、フラット(♭)は半音下げる記号です。音符の左に付いていればその小節内で有効、五線の左端(ト音記号のすぐ右)にまとめて付いていれば曲全体で有効で、これを調号と呼びます。
初心者の段階では「調号に♯や♭が多い曲は後回しにする」で構いません。ハ長調(調号なし)の曲から始めて、♯1つ(ト長調)、♭1つ(ヘ長調)と段階的に広げるのが定石です。市販の初心者向け楽譜の多くがハ長調にアレンジされているのは、このためです。
指使い・指番号で練習する
楽譜の音符の上下に書かれた小さな数字は指番号です。親指が1、人差し指が2、中指が3、薬指が4、小指が5。左右の手で同じ番号です。
「指番号どおりに弾かなくてもいいのでは?」と思うかもしれませんが、指番号は次のフレーズにスムーズにつながるように設計された道順です。自己流の指使いは、その場では弾けても数小節先で必ず行き詰まります。初心者のうちは指番号を「守るもの」と考えてください。ここは独学で最も自己流のクセが付きやすいポイントで、後から直すのに苦労する代表例です。
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和音とコードを学ぶ
複数の音符が縦に重なっているのが和音です。ピアノの楽譜では左手が和音を担当することが多く、ドミソ(C)、ドファラ(F)、シレソ(G)の3つの和音だけで伴奏できる曲が驚くほどたくさんあります。
楽譜の上に書かれた「C」「G7」のようなアルファベットはコードネームです。ポップスの楽譜で頻出しますが、最初は「同じアルファベットのときは同じ手の形」と視覚的に覚えるだけで十分です。コードの仕組みはピアノのコードの基礎で詳しく解説しています。
実際に弾いてみる:譜読み練習の具体的な手順
知識が揃ったら、実際の曲で譜読みを練習します。当サイトがおすすめする手順は次の通りです。
手順1:右手だけ、4小節だけ。いきなり両手で最後まで弾こうとするのが挫折の最大原因です。範囲を区切って、まず右手だけをゆっくり音名を言いながら弾きます。
手順2:左手だけ、同じ4小節。左手はパターンの繰り返しが多いので、右手より早く覚えられることが多いです。
手順3:両手で、テンポは半分以下。「遅すぎるかな」と感じるくらいのテンポで合わせます。正しい音を正しい指で弾ければ、速さは後から必ず付いてきます。
手順4:弾けたら次の4小節へ。1日1フレーズでも、1ヶ月で1曲仕上がる計算です。
この「区切って・片手ずつ・ゆっくり」は地味ですが、独学で確実に上達している方の練習を見ると、例外なくこの形に落ち着いています。逆に「楽譜を完璧に読めるようになってから弾こう」とする方は、高い確率で理論の勉強だけで疲れて止まってしまいます。楽譜の知識は、弾きながら身につけるのが一番の近道です。
よく出てくる記号ミニ辞典
初心者向けの楽譜で登場頻度の高い記号をまとめました。曲の練習中に「これ何だっけ?」となったら、ここに戻って確認してください。
| 記号 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| ♮ | ナチュラル | ♯や♭を取り消して元の音に戻す |
| 弧線(違う高さの音に) | スラー | 音と音をなめらかにつなげて弾く |
| 音符の上下の点 | スタッカート | 音を短く切って弾く |
| < | クレッシェンド | だんだん強く |
| > | デクレッシェンド | だんだん弱く |
| rit. | リタルダンド | だんだんゆっくり(曲の終わりに頻出) |
| 縦2本線+点2つ | リピート記号 | 挟まれた範囲を繰り返す |
| D.C. | ダ・カーポ | 曲の頭に戻る(Fineで終わる) |
強弱記号(p=弱く、f=強く、mp・mfはその中間)も頻出ですが、初心者のうちは「音を間違えないこと」が優先で構いません。曲がひととおり弾けるようになってから強弱をつけると、演奏が一気に音楽らしくなります。
五線からはみ出す音:加線の読み方
曲のレベルが上がると、五線の上下に短い線(加線)を足した音符が出てきます。加線の音は初心者の共通の壁ですが、これも数える必要はありません。覚えるのは「ト音記号の上の加線1本目=ラ」「ヘ音記号の下の加線1本目=ミ」の2つだけ。あとは真ん中のドと同じく、基準からの「お隣さん」で読めます。
加線が3本も4本もある音は、初心者向けの楽譜にはほぼ登場しません。出てきたときは大抵オクターブ記号(8va)で書き換えられているので、「1オクターブ上(下)を弾く」という意味だけ覚えておけば大丈夫です。
譜読みが速くなる3つのトレーニング
曲の練習と別に、1日数分の「読む筋トレ」を足すと譜読みの速度が目に見えて変わります。おすすめは次の3つです。
1. 音名フラッシュ。楽譜のどこでもいいので音符を1つ指差し、音名を即答する練習です。無料の譜読みアプリでも同じことができます。1日2分、ゲーム感覚で十分です。
2. リズム唱。音の高さを無視して、リズムだけを「ターン・タタ・ターン」と声に出して読む練習。高さと長さを別々に処理できるようになると、初見の負担が半分になります。
3. 昨日の曲の初見復習。前日に練習した部分を、翌日「初めて見るつもりで」ゆっくり弾き直します。記憶ではなく楽譜を見て弾く癖がつき、「手で覚えて楽譜を見なくなる」という独学あるあるを防げます。
この3つを曲の練習前のウォーミングアップにすると、譜読みは3ヶ月で別人レベルになります。60代から始めた方でも「半年で市販の初級楽譜が一人で読めるようになった」という声は珍しくありません。譜読みに年齢制限はありません。
よくある質問
Q. 大人から始めて楽譜は読めるようになりますか?
なります。子どもより理屈の理解が早いぶん、基準音から数える方式はむしろ大人向きです。毎日10分、2〜3ヶ月続ければ初心者向けの楽譜は読めるようになるのが一般的な目安です。
Q. ドレミを楽譜に書き込むのはダメ?
最初は構いません。ただし「全部」書くのではなく「読めない音だけ」書くのがコツです。全部書くと楽譜ではなくカタカナを読んでしまい、いつまでも譜読みが上達しません。
Q. 楽譜が読めなくてもピアノは弾けますか?
耳コピや動画の真似で弾く方法もあります。ただ、好きな曲を自分で選んで練習できる自由は、楽譜が読めてこそ手に入ります。並行して少しずつ覚えるのがおすすめです。
両手で読むコツ:大譜表の視線の動かし方
ピアノ特有の悩みが「上下2段(大譜表)を同時に読めない」問題です。これにもコツがあります。
まず、視線は「左から右」ではなく「上下セットで1拍ずつ」動かします。1拍目の右手と左手の音を縦のセットとして見る癖をつけると、両手のタイミングが揃いはじめます。楽譜の縦のラインを鉛筆で薄くなぞって「ここが同時」と可視化するのも、初心者には効果絶大です。
次に、左手は「形」で覚えます。初心者向けの曲の左手は、同じ和音や同じ動きの繰り返しがほとんどです。1小節目の形を覚えたら、あとは「同じ」「ちょっと違う」だけをチェックする。左手を毎回ゼロから読まないことが、両手で止まらずに弾ける近道です。
それでも両手になると手が止まる場合は、テンポを落とすのが唯一にして最強の解決策です。「ゆっくりなら弾ける」状態を作ってから少しずつ速くする——遠回りに見えて、これより速い方法は存在しません。
まとめ:楽譜は「辞書」のように使いながら覚える
楽譜の読み方をまとめます。五線譜の位置が音の高さ、音符の形が長さ。基準の3音(真ん中のド・ト音記号のソ・ヘ音記号のファ)から数えて広げる。音符の長さは倍・半分の関係。拍子は1拍目を感じる。指番号は守る。そして何より、区切って・片手ずつ・ゆっくり、弾きながら覚える——これが遠回りに見えて一番の近道です。
練習を続けるコツはピアノ練習の9つのポイントも参考にしてください。
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この教材で弾けるようになる課題曲は、
ベートーヴェン作曲「第九 歓びの歌」
ホルスト作曲「組曲惑星より ジュピター」
ショパン作曲『別れの曲』(「練習曲」作品10の3番より)
伊勢正三作曲『なごり雪』
ドヴォルザーク作曲『遠き山に日は落ちて』(交響曲第9番第2楽章より)
谷村新司作曲『いい日旅立ち』
トルコ行進曲(モーツァルト)
結婚行進曲(ワーグナー)
ガヴォット(ゴセック)
クシコスポスト(ネッケ)
メヌエット(ベートーヴェン)
主よ人の望みの喜びよ(バッハ)
アヴェ・マリア(カッチーニ) です。
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